修復について

五百羅漢、第百八十番 妙臂尊者像 修復報告

この度は天祥山、桂岩寺様の京仏師、吉岡定雲師作の五百羅漢像の修復工程を報告させていただきます。製作から50年以上の時がたち初期の羅漢像は彩色等の傷みがみられるようになってきました。この時期に部分的な修復と虫食いなどが無いかの確認などの修復が必要になってきましたので今回修復内容を説明させていただきます。

概要

桂岩寺様、五百羅漢像を後世に残す為に本格的な解体修復の前に現状の部分修復が必要とされる時期になってきました。今回第百八十番 妙臂尊者の修復過程を持って説明させていただきます。お預かりした時点での本尊の現状は彩色の剥落、ひび割れが多く見られたため肌の彩色は部分的に洗い木地をだし、胡粉塗り、彩色の行程で修復を施していきます。袈裟、衣部分も剥離、割れがみられますので木地、下地を整え、金箔押し、彩色を付けたし古色でわからないようにしていきます。また台座の敷板にひび割れが見られたため、新調させていただきました。

洗い、乾燥

まず最初に下地の胡粉と木地の接着に用いられている膠の効力が衰え、彩色が剥落する状態にあるため、部分的に水分を含まし胡粉、彩色を刃物、ブラシなどで木地を傷めず洗います。
急速な乾燥は木の割れや反りを招くため、含んだ水分を時間をかけて風通しの良い場所でゆっくり乾燥させます。

胡粉塗り、金箔押し、漆塗り

乾燥後もう一度彩色の発色と木地の保護と肌の質感を出す為、胡粉地を施していきます。胡粉を一度に分厚く塗ると、後にひび割れができてしまいますので薄く塗り、乾かし、また塗ってゆく作業を繰り返しその後表面を研ぎ滑らかに、均一の厚さになるように仏師塗師が仕上げていきます。
胡粉塗りの後はまず、金箔押し行程に入ります。純度が高く変色しにくい金沢の職人さんが作る縁付き一号箔を使用していきます。
台座の敷板は材木の割れが見られたため、新しく木曽の檜を用いて新調し、本漆塗りを施させていただきました。

彩色、水干地塗り

胡粉塗り、金箔押しの後は彩色です。元来、本像に使用されていた、水干絵具を使用し顔の地塗りをします。水干絵具は天然土や白土を染めたもので、その絵具の粉を膠で溶く絵具で退色しにくい伝統的な絵具です。

彩色、描き起こし

彩色の剥落、割れ、擦れ、変色した部分を膠や胡粉を塗り補強し、その後に彩色で古色を施し、模様の描き起こしを行います。

彩色、部分修復の行程

剥落、ひび割れした部分は膠で木地、下地の割れ止めします。次に割れた隙間を胡粉を塗り補強し、ヤスリで凹凸部分を平にして、最後に彩色を行い古見を帯びた色に合わせます。模様の入る場合はこの後に描き起こしを行います。

彩色、開眼

水干絵具で地塗りを施した上に修復前に記録していた写真をもとに、髭や胸毛の彩色、唇と眉を描き古色で全体の色具合を整えて修復の完成となります。

完成

修復後は古色を施すためにどこを修復したかわかりにくいですが沢山の修復工程、職人さんが関わっております。仏像は製作されてそこで完成でなく後世に引き継ぐ為に修復を繰り返していきます。彩色の仏像の場合200年に一度の本格的な解体修復、50年ごとにこの様な部分修復が望ましいとされております。仏像も信仰がなくなり何もしないと虫に食われたり、木が朽ちたりして姿を維持できなくなります。製作された京仏師、吉岡定雲師二代の親子の人生を奉げた五百羅漢像を千年後まで維持させることができますと国の宝として後世の方々に引き渡すことができることと信じております。

京仏師  冨田 珠雲